織物のまち・富士吉田の小さな織物工場 伝統と革新が交差する「TENJIN-FACTORY」
江戸時代に郡内絹の生産地としてその名を馳せるようになった織物の町も、次世代への担い手が見つからなかったり、不況、海外発注の影響により閉鎖され、生産者も生産量も減少し、市場規模はみるみる縮小の一途をたどる―。(2015年に取材したものです)
カシャカシャカシャ。シャトル織機のどこか懐かしく、そして軽快な音が聞こえてくる―。
ここはリネンを用いて布作りをしている織物工場「TENJIN-FACTORY」。昔と変わらない製法でリネンを織る会社である。戦後、先々代の祖父が開いた工場だが、羽織裏に使われた甲斐絹は洋装になり使用されなくなり、シルクに代わり安価なレーヨン・ポリエステルが主流になった。主力であったネクタイ生地さえも、海外ブランドに押される状況。さらにはクールビズも加わり「売れない時代」に。三代目・小林新司さんはその当時のことを「今まで反物でしか卸していませんでした。しかもネクタイ生地しか私は知りませんでした」。
周りの工場は知らず知らず少なくなっていく。反物は売れない。利益は少なくなる。そんな時、リネンに巡り会った。危機感を抱いていた小林さんを救ったのは「アンティークのようなリネンを作れないかな?」という妹さんの一言。もともとアンティークリネンをコレクションしていた妹さんが、ただ単純に作ってみたいと言ったのを発端に、小林さんは糸探しをした。
「なにか他に新しいものを…と考えていた時でした。しかしリネンは、工場の機械では織れないし、風合い・見た目がうちで扱っているものとは違っていたので商売としてはイコールに結びつきませんでした」と消極的な姿が浮かぶ。ある日「風合いを出すため昔ながらの糸を探していたのですが“昔の人はその糸しかなかったんだよな、じゃあ今ある糸で作ってみよう”」と気持ちを切り替え、生地のデザインを妹さんに託し、反物ではなく、製品作りをしたところ好評を博した。これが、オリジナルブランド「ALDIN-アルディン-」の始まりだ。
フラックス(亜麻)という植物の茎の繊維から作られる糸と、その糸を用いて織られた布や製品をリネンと呼ぶ。植物繊維から作られているので、洗濯に強く、また洗えば洗うほど柔らかくなるそうだ。はじめは糊や油分がついていてパリパリで使い心地は良くないが、余計なものが落ちてくると、柔らかく水をよく吸い、乾きも早く丈夫。だから「意外かもしれませんが、リネンは水まわりと相性がいいんです。吸水性・速乾性、黒カビも発生しにくいのでキッチン用品に優れています。しかもタオルより、すっきりコンパクトなところも皆さんに喜ばれています」。
『私たちが一日中肌に触れているもの、それは布です。心地よい暮らしにはお気にいりの布が欠かせません。使い込む程に肌さわりが良くなり、味わいの出るリネン。良質な素材をしっかりと織り上げた布はいつの日かヴィンテージになる筈です』。HPにこう記されている。リネンを知らない人は多い。しかし、ひとたびリネンに触れると一生もの、いいえ親から子へ、さらにその先へ受け継がれる大切な一枚と姿を変える。「リネンは生活必需品のタオルとしてではなく、生活に彩りを与えてくれるもの。そこに置いておくだけで、その空間に色を添えるもの」と小林さんは言う。さらに「流行りやファッションとしてのリネンではなく、本当の意味でのナチュラル生活をおくってほしい」とも。
昔と変わらない製法、職人の魂とその気質を受け継ぐ技術、懸ける想い、一反一反選ばれし糸。長く永く愛することができるリネンに会いにいってみようではないか、いまから―。