寄り道のあと
ニュージーランド北島のワイポウア森林保護区に聳えるカウリは、森の神「タネ・マフタ」と呼ばれる樹齢およそ2500年の巨木。そんな神々しい名前を店名にした「たねまふた」は、店主兼家具職人の寺西圭介さんのお店です。
寄り道をしたことで、人生の大事なものを見つけられた
心地よい手触りやあたたかさ。木の持つメリットを最大限生かして、ひとつのアイテムが完成していきます。たねまふたは、オーダーでのみ承り、生活家具をはじめ、スプーンや皿、木のおもちゃ、櫛まで、木でつくれるものなら何でもつくる寺西さんのおもちゃ箱のような場所。一連の作業をすべて一人でこなす寺西さんは、この仕事に就くまでにいろいろな寄り道をしてきました。
名古屋出身の寺西さんは建築系の大学を卒業後、大手のゼネコン会社に就職。ワーキングホリデーの期限が切れる30歳を目前に会社を退職し、ハワイで3ケ月過ごしたのちニュージーランドへ向かったのでした。何ものにも縛られない生活をしていたとき出会ったのが「タネ・マフタ」でした。「偶然に出会ったまったく知らない木でした。その木の迫力とパワーに圧倒されて、でも近づいて葉っぱを拾うとものすごく小さいんです。この巨木に対してこの葉?というぐらい」と、寺西さんの心の中に強烈なインパクトをもたらしたタネ・マフタ。まさか、生活の礎になる店の名前になるとは、もちろん知る由もありませんでした。
「つくってみないと、わからない」この言葉から生まれた信頼
移住からの3年間、独学で家具のつくり方などを学びつつ、派遣で工場勤務という激務をこなしていました。「今やらないと、もうやらないな、とそんな気がして、これで家族を養おうと腹をくくりました」と、セルフビルドで工房を持ちました。土に根をおろし悠然と構える木のように、地域に根差した店名は「たねまふた」。ふとあの頃を思い出して名付けたのでした。
寺西さんの周りは、開店準備の頃から見守ってくれている人ばかり。当時はまだきちんとした作品もなければ実績もなかったはずなのに、オーダーが入ったのは寺西さんの人柄ゆえ。「嘘をつくのはイヤ。できる?と聞かれてもつくってみないとわからないから、やる気だけ伝えて(笑)。でも、丁寧に正直なことをしていたら、やっていけるという自信がありました」。
工房に並んでいる小物も作業場でつくっている家具も、実直で物腰の柔らかな寺西さんのように優しいぬくもりのあるものばかり。「木は質感や匂い、木目の美しさなど素直に人の五感に訴えてきます。そこが魅力であり、やり直しができることもいい」。切り倒されて生命が絶たれてもなお、人々の暮らしに添うことができる木が持つ宿命。木の命に敬意を表し、もう一度息を吹きかけ再生させる寺西さんは、木の軌跡を追う旅人かもしれません。
https://tane-mahuta.com/
(家みつかるvol.6より抜粋)