錫(すず)の古いスプーンの美しさに魅せられて
南アルプス市に、それはそれは静かにひっそりと「古道具」の魅力を伝え続ける場所がある。月にたった2日のオープンから始まったこの物語の舞台裏には、様々な人の暮らしがあり、想いがあった。アトリエラストが今、伝えたいこと。(2015年に取材したものです)
20代の頃、都内の古道具店で18世紀のフランスの錫のスプーンを見つけたのが古道具との出会いです。時を経て味わい深くなった錫の色合いの美しさに帰りの電車の中で何度も、鞄の中から出しては眺めながら帰ったことを覚えています。
当時を懐かしみながら優しく話すのはアトリエラストの遠藤美紀さん。会社員として働き続けていた遠藤さんは、ふとした時に自分の人生について考えるようになった。結婚そして、出産を経験、子どもに親としてどんな事を伝えていきたいのか…そう考えたとき「人生を楽しむ」ということを伝えていければ…と思いました。
7年前、会社員を辞めて進んだ道は古道具店。当時は県内でも珍しい業種、周囲の反応は決して良いとは言えない状況。しかし、ご主人とこの場所を貸して下さった方、友人等、いろいろな方の応援もあり、自分の望む道へと進むことができたのだと言います。
昔は、技術も現代のように高度ではなく、グラスや器、家具等様々なものが1つずつ丁寧に作られていました。その、当時あたり前のこと…だからこそ、今も尚受け継がれて使い続けられるものも多いのです。戦後の量産品にはない、一つひとつ違うモノの表情を感じることができます。
古道具というと少し高価なイメージだったり、今ある生活に取り入れにくいイメージがあるのですが?そう聞くと、「そんな風に感じている方も多いのかもしれません。何を美しいと思い、心惹かれるのかは人それぞれだと思います。古道具とは、まさに一期一会。一つひとつのモノの造形や表情、佇まいを感じてその出会いを楽しんでいただければと思います。
古いモノを生活に取り入れたスタイルを提案できる様なレイアウトを心がけています。そこからまた、長く育てる様な気持ちで使っていただけたらと思っています。時を経たモノにはそれぞれの物語があり、それを感じ惹かれた方に引き継がれていく。そんなモノと人とのご縁をつくっていけたら嬉しいです」。
ここの扉を初めて開けたとき、どこか懐かしくて、ホッとする。でも自分の知らない場所。そんな不思議な感覚になったのは、この空間に沢山の物語が溢れていたからなのかもしれません。古道具の魅力を伝え続ける遠藤さんは、この先もどなたかの暮らしを思いながら古道具に出会い、一つひとつ丁寧にこの空間へ置いていくのでしょう。